邪馬台国の場所を推定するに当たり、まず必要なのが「大規模な天然の水田適地」を見つける事です。
大きな農業生産がない地域に大きな古代国家は出現しません。
前回は、マクロな視点から水田稲作農業と畑作農業との人口扶養力の差を見つめました。
今回は具体的に、「なぜ水田稲作は優位なのか?」という視点から見つめます。
そこから見えてくるのは、「お米は 穀物の王様」です。
古代日本の超大国は、畑作では駄目なんです!
前回の動画でも述べました通り、水田稲作は非常に生産効率の高い農業です。一般論ですが、米の人口扶養力は、麦やトウモロコシなどの他の主要穀物に比べた場合に3倍~4倍も期待できるとされています。それは、単に米の栄養価いというだけの理由ではありません。
一つには、
1.単位面積当たりの収穫量が多い事。
また、
2.連作障害がない事。
そして、
3.土壌の質が改善する事。
さらに、
4.病害虫に強い事、です。
まず、単位面積当たりの収穫量が多い事です。
連作障害や、病害虫、自然災害などの悪条件を考慮せずに、単純に同じ面積で、「米」と「小麦」を栽培した場合。
米の方が遥かに多く収穫できます。栄養価については一長一短ありますので、単純比較はできませんが、同じ栄養価とすれば、約1.5倍も米の方が優れています。
同じ土壌であれば含まれている栄養分は同じですので、収穫できる作物にそれほどの差が生まれはずはありません。
水田でできた米と、畑でできた麦との決定的な違いは、「水」です。成育期に水で覆われている稲は、土壌の栄養分だけでなく、水の栄養分も吸収しているのです。
畑作物は、空から落ちてくる雨水だけですので、栄養分はありません。
水田の水は、山林からとけ出した養分を運んできてくれます。水田は、上流の森林から流れてくる豊かな栄養をしっかり受け止めて、有効に利用しているのです。
つまり水田稲作は、土壌の栄養分と、森林からの水に含まれる栄養分の、両方をもらっているということなのです。
次に連作障害がない事です。
水田稲作による米の栽培には、連作障害がほとんどありません。毎年同じ場所で、稲が育ち、安定収穫が得られます。
農業をされている方や、家庭菜園をされている方はご存知でしょうが、小麦をはじめとする畑作物には連作障害があります。
同じ場所で同じ作物を栽培すると、生産量が極端に減少してしまうのです。その原因には、「土壌病害」「線虫害」「生理障害」の3つがあり、数年間、農耕地を休ませる必要があります。作物によってその期間はまちまちです。
連作障害の対策として、畑作農業を行っている地域では、『輪作』が行われています。種類の異なる作物を栽培するのです。小麦を作った農地は、翌年には豆類の栽培、さらに次の年にはトウモロコシを栽培する、といった具合です。
しかし輪作によって得られる畑作物の収穫量は、水田稲作による「米」よりも遥かに小さなものです。結局、収穫効率の悪い農業になってしまうのです。
水田稲作は、二千年以上に渡って、毎年同じ場所で当たり前のように栽培されています。日本人にとっては当たり前ですが、畑作物を主食としている民族からすれば、奇跡の作物なのです。
次に、土の劣化がない、すなわち土壌の質が改善する事です。
日本の土はだいたい酸性で、養分が少なく、作物の生育に適しているとはいえません。 田んぼに水を入れてしばらくすると、土の中の酸素が微生物によって使いつくされ、土の中は酸欠状態になります。
このとき水田の土の中では畑にはない、さまざまな変化が起こります。
酸性の土でも、だんだんとアルカリ性の方へ変わり、作物が育ちやすい状態の中性に近くなります。
また、土の中の酸素がなくなると、稲ワラなどの有機物の分解がゆっくりと進み、肥料として与えた有機物を長い期間利用することができます。
畑作栽培では、こうは行きません。
さらに、病害虫に強い事です。
田んぼに水をはると、土壌の質が改善するのと同時に、病原菌や害虫の発生が少なくなります。
土の中は酸欠状態になりますので、酸素がなくなると、作物に病気を起こす、酸素が必要なバイ菌や害虫などの有害生物が死んでしまいます。
つまり、病原体や害虫を元から断つことができるのです。
もちろん、それでも水稲に発生する病害虫はありますが、畑作物に発生する病害虫に比べれば、わずかなものです。
畑作地帯では現代でも、イナゴの大発生でしょっちゅう悩まされています。水田稲作地帯には、そのような問題が発生するのは、ごくわずかです。
これら四つの利点のほかにも、水田稲作の利点は数多くあります。
・比熱の低い水の作用で、大気の温度変化が大きくても、作物の温度は一定に保たれる。
・害虫を駆除する食物連鎖がうまく回転している、例えばトンボ、カエル、メダカ、イモリ、ザリガニ、ドジョウ、ゲンゴロウ、ミズカマキリ・・・などなど、水田にはさまざまな生き物が住んでいます。もちろん現代では化学肥料などの影響で、あまり見かけなくなりましたが。
今回は具体的に、「なぜ水田稲作は優位なのか?」という視点から見つめました。「穀物の王様」とも言うべき水田稲作を農業の主軸に据えた日本人は、賢すぎます。
そして邪馬台国という超大国があったとすれば、広大な天然の水田適地が存在する場所、となります。
しかし、弥生時代に水田適地に稲作が広がったものの、日本列島全域に完全に行き渡るには室町時代まで待たなければなりませんでした。
その理由は、水田稲作の欠点でした。
次回は、欠点に焦点を当てて行きます。