稲作の敵 黒ボク土

 前回に引き続き、日本列島の土壌の種類です。ただでさえ平野の少ない日本ですが、それに輪をかけて水田稲作の障害になったのは、「火山」です。火山灰の影響によって生成された土壌は、畑作栽培には適するものの、水田稲作には適さない土です。この土の分布は日本列島の約三割を占めており、最も多い土壌です。

 今回は、黒ボク土と呼ばれる火山灰の上に作られた土壌の特徴に焦点を当てます。

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土壌割合

 天然の水田適地としては、前回の動画で示しました低地土が最も優れています。しかしこれは、日本列島の僅か14%の面積しかありません。日本での主要な土壌は、褐色森林土と黒ボク土と呼ばれるものです。

 それぞれ30%と31%を占めています。褐色森林土は水田稲作には問題ない土壌ですが、黒ボク土には問題があります。

まず、褐色森林土についてです。

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褐色森林土

 この地図は、褐色森林土の分布です。

 褐色森林土は、火山灰の影響の少ない山地や丘陵地に分布する土壌です。火山が近くにない山々や森林地帯の土は、この土であると考えて間違いありません。栄養豊富な山々の土ですので、これを利用して水田稲作を行う事に、問題はありません。ただし、そもそも山地や丘陵地という傾斜のある場所や扇状地といった水はけの良すぎる場所です。簡単に水田を作る事は出来ないでしょう。

もし、農耕地として利用する場合は、畑作物の栽培や果樹園、あるいは牧草地として使われる場合が多いようです。古代の農業であれば、焼畑農業でしょう。

 また、棚田と呼ばれる傾斜のある土地に作られた田圃の土は、この褐色森林土という事ですが、このような理由から、水田稲作の占める割合は、全体から見ればごくわずかです。

  ちなみに、弥生時代に棚田が作られた形跡は、今のところ見つかっていません。非常に手間が掛かる上に、ほんの僅かの田圃しかできないからです。

 四国地方に多く見られる「高地性集落」は、焼き畑農業を行っていたとされています。山間部という不便な場所で、効率の悪い農業を行っていたわけですので、小さな集落が点在している状態だったようです。

 次に、黒ボク土です。

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黒ボク土の分布

 この地図は、黒ボク土の分布です。

 この土は、火山灰に由来します。火山灰の上に生えていた植物の腐植によって、生成された土です。

名前の由来は、黒くてホクホクしていることから、そう呼ばれているそうです。

 分布地域を見ると、火山の多い九州の中・南部、関東地方、東北北部、北海道南部に広がっています。また河川によって土が流される為に、山岳地帯だけでなく、平地部分もこの土壌となっています。

 つまり、地形の構造上、巨大淡水湖跡という地形的な水田適地であったとしても、地質という点では低地とは異なる状態という事になってしまいます。

 この黒ボク土の日本での割合は31%と最も高いのですが、世界的にみると1%にも満たない希少な土です。火山国・日本ならではの土と言えます。

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リン欠乏

 この土は、天然の状態では水田稲作には向きません。それは、土がリン酸と強く結びつけてしまう性質がある為です。作物はリンを吸収しづらくなってしまうという事です。これは、稲作には致命傷です。稲は多くのリンを吸収する必要があるからです。

 現代ではリン酸を補う化学肥料が普及したため、この問題は解決していますが、弥生時代においてこの土壌で水田稲作を行う事は不可能でした。従って、古代日本の超大国が出現するには、黒ボク土地域には不可能だという事です。

 なおこの土壌には、保水性や透水性が良く、柔らかいという特徴があります。簡単に耕す事ができますので、リンを必要としない畑作物であれば、非常に良好な土壌といえます。

 化学肥料が普及した現代でも、黒ボク土の分布地域の多くは、畑作栽培が主体となっています。

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黒ボク土の細分化

 日本全国に存在する黒ボク土ですが、九州のものと関東のものとは、性質が違います。火山灰の上に生えていた植物の腐植期間の違いによるものです。また、有機物の含量、地下水位の影響などからも、6種類に分けられます。

 未熟黒ボク土、グライ黒ボク土、多湿黒ボク土、褐色黒ボク土、非アロフェン質黒ボク土、アロフェン質黒ボク土

そして低地土と同じように、それぞれの土壌もさらに細分化されます。

 現代においては土壌の質を詳細に研究する事によって、適した作物を栽培したり、土壌を改良したりと、効率的な農業が行えるように、様々な工夫がなされているという事です。

 弥生時代の稲作伝来は、北部九州でした。長江流域からの伝来でしたが、九州の中部・南部からの水田遺構はほとんど発見されていません。また、日本列島で最も遅く稲作が始まったのは、関東平野です。これも、黒ボク土の分布地域だからという説が有力です。

 地形・地質・気象条件という、自然が教えてくれる根拠は、揺るぎないものです。文献史学のように解釈次第で、どうにでも歴史が捏造されるのとは、訳が違います。