発掘調査で見つかった遺物は、どのように年代鑑定されるのでしょうか?
考古学の専門家が薄暗い資料庫の片隅で、出土品と過去のデータをにらめっこしながら、鑑定している様子が目に浮かびます。科学技術が進歩したとはいえ、現在でもほとんどの年代鑑定は「編年」と呼ばれる昔ながらの手法が使われているようです。それでも、無造作に乱開発して遺跡を破壊していた時期と比べると、制度が整っているのは間違いありません。今回は、出土品の年代鑑定に焦点を当てます。
発掘調査から見つかった遺物は、年代推定が行われます。
数億年前に生息していた恐竜の時代から、近世の昭和時代まで様々です。ここでは、古代史に関係する3000年前の縄文時代から1500年前の古墳時代の出土品に使われている手法をまとめます。
大きく3つの手法に分けられます。
1.編年と呼ばれる一般的な手法から、科学的な
2.放射性炭素年代測定 や
3.年輪年代測定法
などがあります。まず「編年」です。
発掘調査による出土品の年代鑑定の一般的な手法は、「編年」と呼ばれるやり方です。
これは、見つかった土器や石器などの特徴を形・素材・作り方などから分類し、新しいか古いかで順番に並べていき、その変遷の状況から、いつ頃のものなのかを表す方法です。
弥生時代の出土品には、文字が書かれているものはまだ発見されていないので、地方ごとの個性ある土器を指標として、その年代を基に、出土した遺物の年代を推定するケースが多いようです。
例えば、九州の直方平野から大量に出土している遠賀川式土器は、弥生時代前期の標式土器ですので、これに近いタイプの土器が出土すれば、弥生時代前期以降という仮定がなされます。
一般に、25年の範囲で、何世紀の第何四半期かを特定していますが、200年前の江戸時代ならともかく、2000年前の弥生時代となると、かなりの誤差が生じるのは自明でしょう。
もちろん土器の種類だけでなく、青銅器や鉄器など、いろいろな要素の組み合わせを見ながら、幅を狭めていく作業をしているようです。
編年の手法の一つとして土の層の堆積たいせき状況があります。地層は年を追うごとに上に積みあがっていきますから、出土品が発見された深さから年代がある程度推測されます。
ただし、古い遺物が必ずしも深い場所にあるわけではないそうです。それは、古代には現代では考えられないほど頻繁に洪水がありました。洪水は表面だけではなく、深い地層までも攪拌してしまいます。それによって、新しい遺物が深い地層に、古い遺物が浅い地層に逆転してしまうのです。古墳などの小高い丘の遺跡ではほぼ起こりえない現象ですが、平地ではよくある事だそうです。
もちろん、石器時代、縄文時代、弥生時代という数千年以上のスパンであれば、地層の年代推定がなされるのですが、弥生時代の前期、中期、後期という数百年スパンでは、地層だけで年代を特定するのは非常に困難です。
編年のもう一つの手法として、指標となる土器だけでなく、指標となる遺物から年代を推定する場合もあります。
例えば、「貨泉」という青銅器で作られたお金です。
貨泉は前漢と後漢の間にあった新の時代の貨幣です。時期的には、紀元8年~23年という短い期間です。
日本では、北部九州、出雲、丹後、吉備などで発見されています。
この貨泉が出土した遺跡の年代は、貨泉の製造時期からだいたい弥生時代中期後半という推定がなされます。
同じように、中国産の銅鏡などでも、弥生時代の年代推定がなされます。
ただし問題点もあります。これらの遺物は「宝物」として長期間保存した後に埋められた可能性もある事です。
必ずしも遺跡の年代と、遺物の製造時期とが一致するものではありません。また、銅鏡では日本国内で作られた中国銅鏡の複製品も数多くあります。
結局、周辺で発見された土器の種類や特徴、地層の年代、などとの総合的な判断で、年代推定が行われるのです。
科学的な年代推定として、放射性炭素年代測定があります。
これは、動物や植物などの炭素を含む遺物から年代を推定する方法です。
自然界の炭素には、重さが異なる炭素12・炭素13・炭素14という3種類の原子が混ざっています。空気や生きている生物には、放射性の炭素14がほんのわずか含まれています。生物が死亡して呼吸が止まると、炭素12と炭素13に変化はありませんが、炭素14は、一定の割合で減少していきます。
この性質を利用して生物の遺体や炭化物の中に残っている炭素14の濃度から、生物が死んで何年経過したかがわかるのです。
ちなみに炭素14は、炭素原子1兆個につき1個程度で、5730年間で半分の量になります。
この手法は、「今から何年前」というように、具体的な数字で表される「絶対年代」です。
一般的な「編年」の手法は、だいたいこれくらいという「相対年代」ですので、正確性が格段に違います。
欠点としては、動物や植物などの生物の出土品が必要である事と、お金が掛かる事です。
世間が注目している遺跡でない事には、この手法は用いられません。
現在では放射性炭素年代測定の中でも、「AMS法」という、より精密な年代を調べることができる手法が用いられるようになっています。従来の方法では、測定に炭素1g以上が必要なのに対し、この方法ではその千分の一の1mgの炭素の量で測定が可能となりました。そのため、貴重な文化財を壊さずに測定できるようになり、対象となる試料の種類が大幅に広がりました。
最近では、土器についている「おこげ」から、年代を測定することが可能になりました。 「おこげ」は土器が煮炊きに使われていた時に付いた吹きこぼれや焦げ付きの跡で、付着する量が少ないため、これまで年代測定がなかなか困難でした。新たな科学技術の進歩により、「おこげ」から土器が実際に使われた年代を調べることが可能となりました。
このような科学的な方法を利用して、「編年」だけで推定されていた年代を再検討する研究が進められています。
もう一つ、年輪年代測定法という方法もあります。
これは、その名の通り樹木の年輪パターンを分析することによって、年代を科学的に決定する方法です。
年輪年代測定の最も優れた点は、樹木の年代を年単位で正確に決定できることです。放射性炭素年代測定で求められる年代は必然的に数十年から数百年の統計的な誤差が含まれますが、年輪年代法を併用することによって、より正確な年代の決定が可能となります。また近年では、年代がわかっている樹木年輪を用いて、大気中の炭素14の濃度を測定し、標準的な炭素14の濃度変動が作成されています。このデータは、放射性炭素年代の暦年代への校正に用いられています。